第155回 |
billionは10億、それとも、1兆?
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英語のbillionを辞書で調べると、アメリカ用法では「10億」(1,000,000,000)、イギリス用法では「1兆」(1,000,000,000,000)と記されています。但し書きとして、今ではイギリスでも10億の意味で用いることが多い、と記されてはいますが。でも、現在でもイギリスでは「1兆」の意味で用いる人もいるようです。イギリス人とアメリカ人がこの語を使ったときに互いに間違えることはないんでしょうか。
Billionはmillion(百万)の’mi-‘をbi-(2、重)と入れ替えてできたものです。したがって、本来はmillionの2乗、つまり、1,000,000,000,000(1兆)を意味しました。この語は17世紀にフランス語から英語に入ったものです。ゆえに、イギリスでは「1兆」の意味で用いられていました。ところが、後にフランスがこの単位を109、すなわち、1,000,000,000(10億)に変更しました。アメリカはbillionをこの単位をフランス式に「10億」として採用しました。ここから、英米でのズレが生じた次第です。
20世紀後半になって、イギリスもbillionをアメリカと同じ「10億」として使うようになりました。現在では英語圏の多くで「10億」として用いられています。繰り返しますが、依然としてイギリスでは本来の「1兆」の意味で使用する人がいます。また、奇妙なことに、20世紀中半にフランスは再度この単位を「1兆」(1012)に戻しています。
Billionを「1兆」の単位とする尺度を’long scale’、「10億」とする単位を’short scale’と称する場合もあります。かくして、現在では、アメリカ、イギリス、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランドなどでは’short
scale’、すなわち、「10億」として使われているわけです。それでも、念のため、billionを用いるときには、口頭だけではなく、書いて確かめたい気がしないでもありません。いずれにしても、大昔には、こんな大きな単位は必要なかったのかもしれませんね。
[ワンポイント英語表現]
Anyone deliberately using billion to mean 1012 in British
English is likely to be misunderstood.
(イギリス英語でbillionを故意に1012の単位で用いると、誤解される可能性があります。)

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御園和夫
関東学院大学名誉教授、日本実践英語音声学会顧問。英語学、英語音声学、英語教授法専攻。特に英語の音声教育に力を注いでいる。英国レディング大学、米国UCLA、オーストラリア、クイーンズランド大学などで研修・留学。
長年にわたりテレビ・ラジオで活躍し、「百万人の英語」や「旺文社大学受験ラジオ講座」など、数々の英語番組を担当。
著書に、『コミュニケーション主体の英語音声学』(和広出版)、『耳から楽しむ英語ジョーク:聴くユーモア』(CD付)旺文社、『成功する英語表現講座』(南雲堂)、『場面別英会話』(旺文社)、他多数
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